本記事では、フジテレビの女性アナウンサー(以下、女性A)と中居氏の間で発生した事案について、フジテレビ問題で第三者委員会の調査報告書を元に、時系列に沿って整理し、組織対応の課題を考察します。2021年末から2025年初頭までの約3年間にわたる事案の推移を、関係者それぞれの視点から読み解きます。
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前史:「スイートルームの会」からBBQまで(2021年11月~2023年5月)
2021年11月、B氏(フジテレビ幹部)が中居氏・タレントU氏とともに「スイートルームの会」を企画します。12月に女性Aに対して、当初はU氏との飲み会として誘いがかけられました。実際には12月18日、外資系ホテルのスイートルームで中居氏やU氏、アナウンサーらと会食が行われましたが、女性Aには事前にスイートルームでの会合であることは伝えられていませんでした。
この時点から、業務と私的な交流の境界が曖昧になっていたことが見て取れます。女性Aは21時半頃にB氏から「明日仕事早いだろう」と言われて退出を促されましたが、実際には翌日の仕事はなく、「ノリが悪いから帰された」と感じたと報告されています。
2022年1月から8月にかけて、B氏を介して中居氏との会食に女性Aが誘われる場面が数回ありましたが、女性Aはそのほとんどを断っています。この時期、不適切な言動は確認されていませんが、中居氏が「女性陣を呼べ」とB氏にメッセージを送り、女性Aを名指しで指名するなど、中居氏の女性Aへの関心が見られます。
2023年5月28日、中居氏がB氏に「ゴルフが雨で中止になる見込みだからBBQを開催しよう」と提案。女性A、女性アナウンサーT氏、女性スタッフが招かれ、会場は中居氏所有の都内マンションでした。
5月31日のBBQ会では、女性Aが「仕事にプラスになる」とB氏から言われていたにもかかわらず、皿洗いや配膳などを指示されています。BBQ終了後、中居氏が「すしに行かないか」と誘い、女性Aは中居氏・B氏と3人ですし店に行きました。この場で、「つきあっちゃえばいい」という軽口(B氏発言の可能性)があり、中居氏と女性Aが連絡先を交換しています。
この時点で、業務関係者との食事という体裁をとりながら、実質的には私的な関係構築が進められていたことが明らかです。食事代はB氏が立て替え、後日「番組企画打合せ」として経費処理されており、業務と私的な場の境界があいまいになっていました。
事案発生と初期対応(2023年6月)
BBQ会の2日後、6月2日に中居氏から女性Aに個別の食事の誘いがありました。中居氏は「メンバーの声かけてます」と伝えながら、実際には誰にも声をかけていませんでした。夕方には「メンバーがいない。2人だけだとね」と店を探す素振りをし、さらに「メンバー見つからず。2人でも飲みたいけど…」と連絡した後、BBQ会場だったマンションで飲もうと提案。女性Aは断りづらく感じ、承諾しています。
この日、中居氏のマンションで2人きりとなった女性Aが性暴力被害を受けたと報告されています。
被害から4日後の6月6日、女性Aは産業医C医師に電話で「不眠」などの症状を訴え、その後心療内科医D医師の診察を受けました。医師らは女性Aの詳細な説明から「急性ストレス反応」と診断し、薬を処方しています。
同日、アナウンス室長E氏が女性Aの異変(机で突っ伏して号泣)に気づき、女性Aから中居氏からの性暴力の告白を受けましたが、女性Aは「誰にも言わないでほしい」「仕事を続けたい」と訴えています。
6月7日には女性管理職F氏との面談で、女性Aがより詳細に状況を説明。「行かないと仕事に差し障ると思った」と業務上の圧力を感じていたこと、食べた食事の具材がフラッシュバックしてトラウマ化していることなどを語りました。
6月8日、健康相談室でC医師、E氏、F氏が対応方針を協議し、「中居氏から性暴力を受けた」との共通認識に至っています。対応方針として、情報共有は必ず本人確認をとること、女性Aのケアを最優先すること、番組降板は本人確認なしでは判断しないことなどが決定されました。
この初期対応では、現場レベルでは適切な支援体制が構築され始めていましたが、まだ経営層への報告は行われていませんでした。
状況悪化と入院(2023年6月中旬~7月)
6月10日頃、F氏と相談の上、女性Aは番組を一時休演(1週間、「体調不良」の理由で)。6月20日にはD医師を再受診し一旦業務に復帰しましたが、他のアナウンサーより「手の震え・ふらつき」の報告があり、F氏は女性Aの意向を尊重して業務を継続させました。
6月下旬頃、女性Aが健康相談室を再訪問し、食欲不振、ふらつき、震え、睡眠困難、食材トラウマ、身体痛を訴え、「もう限界」の状態に。医師は即入院が必要と判断し、まず消化器内科で体力回復を図り、その後精神科に転科する計画を立てました。翌日、女性Aは都内の病院の消化器内科に入院。「紹介・診療情報提供書」には「うつ状態・食思不振」と記載され、原因は「仕事関係者からのハラスメントによる」とされています。
6月6日、女性Aは中居氏に「気持ちがついていけない」と伝え、6月15日には「6月2日の件でショックを受け、仕事を休む」と連絡しています。
7月11日、女性Aは入院することを中居氏にショートメールで報告。翌7月12日、中居氏はB氏・J氏に電話で「女性Aとトラブルになっている」と相談。
7月13日、E氏がG局長に対面で事案を報告しますが、「聞かなかったことにしてほしい」と前置きしています。G氏は「役員には報告せず一旦預かる」と判断。E氏はさらにH人事局長にも報告し、H氏は「社員への安全配慮義務の観点から重要」と認識しました。
同日、中居氏がB氏・J氏に面会し、「女性Aの心身の回復を助けてほしい」と依頼。口外しないよう要請しています。
7月14日、女性Aは中居氏に対し「意に沿わない行為だった」「怖かった」などを告白し、治療費の支払いを求めるショートメールを送信しました。
情報共有の限定と対応の分断(2023年7月中旬~8月)
7月中旬まで、港社長は大多専務から「男女間のトラブルで心を痛めているアナウンサーが入院している」としか聞いていませんでした。
8月21日、G局長がE氏を突然呼び出し、大多専務に本事案を報告。大多専務はこの時初めて性暴力を含む事案だと認識し、「大ごと」と判断。その場で港社長に電話し、報告しています。
同日、港社長は以下の対応方針を決定しました:
1. 女性Aの安全・心身ケアを最優先
2. 自然な復帰までサポート
3. 女性A復帰後、不自然でない形で中居氏の起用を終了
4. 情報共有は社長・専務ら限られたメンバーに限定
この会議にH人事局長は不参加でした。
7月26日、B氏が「中居氏から見舞品を預かった」と女性AにLINE。7月28日、B氏が現金100万円を含む見舞品を病院に持参しますが、病院側の判断で女性Aは受け取らず、返却されました。
7月31日、F氏が女性Aにチャットでお見舞いの品について尋ね、女性AがF氏にB氏が見舞金を運んできたが拒否したことを報告。F氏はE氏・G氏にメールで報告しましたが、反応はありませんでした。
8月1日、女性Aが中居氏に「退院まで連絡を控えてほしい」と送信しましたが、その後も中居氏は9月中旬まで一方的にショートメールを送信し続けています。
8月上旬、女性Aの精神状態が悪化し、自傷行為などが見られ、退院が延期されました。8月22日には、PTSDと診断された診断書を女性Aが提出しています(F氏経由でH氏へ)。
判断の欠如と番組継続(2023年8月下旬~12月)
8月下旬、B氏とJ氏が相談し、中居氏には知らせずにG氏に報告。中居氏が女性Aと2人で会い、性行為があった旨を7月中旬に相談を受けたことを口頭報告しています。
9月上旬頃、G氏、港社長、大多専務の3名で2~3回にわたって本件について協議。中居氏の番組継続の是非や、女性Aの病状報告等が議題となりました。港社長は「外部に漏れるな」と強く指示し、情報は限定されたままでした。
「まつもtoなかい」の番組継続判断について、2023年7月の広告会社向け説明会で編成内容が「オールフィックス」状態だったこと、9月改編で急に降板させると「憶測が広がる」と考え、番組継続が判断されました。この判断には中居氏へのヒアリングも、女性Aへの意思確認もありませんでした。
9月上旬、女性Aが退院。服薬・通院しながら自宅療養し、10月からの業務復帰を目指しました。9月22日にはアナウンス室の会議にWeb参加しています。
9月下旬~10月上旬、F氏が番組改編・降板に関して、女性Aに複数回にわたり説明。女性Aは「すべてを奪うのか」と慟哭するも、最終的に対応方針を受け入れました。
10月の番組改編で、女性Aはすべての番組から降板(ただし、復帰の「戻る場所」として1番組だけ名前が残される)。体調不良が続き、復帰は困難となりました。女性Aは番組降板にショックを受け、CX社屋の中居氏ポスターを見るたびにフラッシュバックすることを懸念していました。
10月下旬、女性Aが入院中の自撮り写真と心情をInstagramで発信。CX関係者や世間から様々な反響がありました。F氏が女性Aに「対外発信を控えては」と提案しましたが、女性Aが「社会とのつながりを奪うのか」と涙。医師の判断で発信継続が容認され、以後、Instagram発信が女性Aの支えとなりました。
示談成立と松本氏問題との交錯(2023年11月~2024年2月)
女性Aの退職と番組終了への道筋(2024年3月~2025年1月)
考察:組織対応の課題
この事案から浮かび上がる組織対応の主な課題として、以下の点が挙げられます:
この事案は、組織内でのパワーバランスの不均衡、性暴力被害に対する理解不足、そして情報共有と対応の分断が複合的に作用し、被害の拡大と長期化を招いた事例と言えます。組織として、被害者中心のアプローチ、透明性のある情報共有、専門的知見を取り入れた対応策の策定が今後の課題となるでしょう。
また、業務とプライベートの境界設定、特にタレントや著名人との関係において、組織としての明確なガイドラインと保護措置が必要です。被害者の体験や声に真摯に向き合い、適切な支援と再発防止策を講じることが、同様の事案を防ぐために不可欠です。